タ・ソム遺跡とは
About Ta Proth Remains
アンコール遺跡群の中では大回りコースとして観光スポットに組み込まれていることが多いタ・ソムは、バイヨンで名高いアンコール・トムの北西にある小規模な寺院です。
ジャヤーヴァルマン7世によって、彼の父 ダーラニンドラヴァルマン2世に捧げるために12世紀末に建てられました。
ジャヤーヴァルマン7世とはアンコール王朝最盛期の王様で、城塞都市アンコール・トムを造り上げた人物です。
チャンパ軍からクメール王国を開放し、都をアンコール・トムに定め、王都や地方都市への主要道路の整備、宿駅や病院の設置をも行った、軍事・政治的に優れた人格者であったと言われています。
約600年にわたるアンコール王朝時代は、王位継承は世襲制ではなく実力が重視されていたため、王位をめぐって内戦が勃発し、王が次々に交代する時代が続きました。
その中でジャヤーヴァルマン7世は、約40年にわたって王位についていた実力者だったのです。
ジャヤーヴァルマン7世以前のアンコール王朝ではヒンドゥー教が信じられ、ヒンドゥーの神様を祀ったり王様自身が神と一体化するための寺院が建てられていましたが、大乗仏教の信徒であるジャヤーヴァルマン7世の即位後は、仏教に関わる施設が次々と建設されました。その1つがタ・ソムです。
タ・ソムはもともと大乗仏教を学び教える僧侶たちの住まいであったそうで、アンコール・トムのバイヨン寺院に代表されるバイヨン様式と呼ばれる造りでできており、ラテライトの周壁によって囲まれた内部には中央祠堂、経堂、小さいながらも四面仏を乗せた塔門があります。
現在の姿は建物の石組みがずれ、樹木の根が幾重にも塔門に巻き付き、破壊がずいぶんと進んでいるので足元にも注意が必要です。
タ・ソムの歴史と見所
タ・ソムは12世紀末、ジャヤーヴァルマン7世によって北バライの東側に建てられた仏教寺院です。
もともとは大乗仏教の僧侶たちの住居だったそうで、北バライの中央には施療院としてニャック・ポアンが、北バライの西側には仏教を学ぶ場であったプリア・カーンが、それぞれ12世紀後半~末にかけて、同じジャヤーヴァルマン7世によって建立されました。
アンコール史上、ジャヤーヴァルマン7世の最大の功績は1113年に城壁都市アンコール・トムを完成させたことでしょう。
アンコール・トムの建造は、王宮のピミアナカスや西バライなどを作ったスールヤヴァルマン1世により1020年に着手され、その後数代の王を経てようやく完成された国家寺院で、アンコール地域に王都を作ることは度々他国軍に脅かされた当時の王たちの長年の夢でした。
アンコール・トムは数代の王により作られたためヒンドゥーの宗教色を濃く残していますが、ジャヤーヴァルマン7世自身は大乗仏教を信仰する仏教徒でした。
そのためアンコール・トムの内部でも、彼が創建させたバイヨンは仏教寺院となっており、数々の彫刻の中でも観世音菩薩の四面塔が特に有名です。
ジャヤーヴァルマン7世が建てたタ・ソムも、その四面仏の塔門を構え、壁で四方を囲んだバイヨン様式の建築物で、プリア・カーンの石碑には「タ・ソムは珠玉の白象寺院である」と彫られていたそうですが、今は破損が激しく城壁はかなり崩れています。
1998年にワールド・モニュメント財団の修復プログラムに登録され、安全に観光ができるよう修復がすすめられている遺跡の1つです。
「ソムおじいさん」という意味の名前を持つタ・ソムは僧院として建てられましたが、ジャヤーヴァルマン7世が父であるダーラニンドラヴァルマン2世に捧げるために建築した寺院です。
北バランのニャック・ポアンを間に挟み、タ・ソムの約5キロ西に建てられた寺院 プリア・カーンが、そのダーラニンドラヴァルマン2世の菩提寺であったと言われています。
タ・ソムの出入り口は西側の塔門です。
塔門の頭上にはバイヨン寺院で見られるものと同じ四面仏が人々を迎えます。
その顔はひび割れ風化が進んでいますが、観世音菩薩の眼差しからタ・ソムは人々を救済する大乗仏教の寺院であることがわかるでしょう。
西門から見学し散策した後には、是非とも東門の先にある東塔門を見学してください。
ここには本来は西塔門と同じ四面仏があるはずですが、リエップという名の根が細い木が巻き付き、塔門を覆いつくしている様は自然の驚異を感じさせます。
樹々に押しつぶされそうな姿で名高いタ・プロームとは、また少し異なる趣で必見です。
東西の門では、美しいデバターのレリーフを何体も見ることができます。
デバターとは一般的には女神と言われますが、インド神話の水の精アプサラスや、ヴィシュヌ神の妻 ラクシュミーであるとも言われており、アンコール遺跡群ではとてもよく見ることができる美しい女性のレリーフです。
タ・ソムのデバターはそれぞれのポーズが異なり、祈る姿や踊る姿などバラエティがたいへん豊富ですが、特に美しいと有名なデバターは髪の毛を絞る姿の女神像です。
また、当時のおしゃれを彷彿させるような、耳に大きなイヤリングを付けたデバターもあります。
門の内部には中央の祠堂を中心に8つの建物と2つの経堂があり、かつては22の神体が安置されていたそうですが、今は見る影もありません。
それぞれの建物は崩れ落ち瓦礫の山となっていて、長い年月放置され、人知れず眠っていた遺跡であったことを感じさせるでしょう。
タ・ソムの場所(Google MAP)
シェムリアップの中心から車で約30分、アンコール・トムも北東に位置するタ・ソムは、北バラン地域の観光で見学しておきたい寺院の1つです。
プリア・カーンの貯水池であった北バランを間にはさみ、プリア・カーンとタ・ソムは約5キロの距離にあります。
この辺りの遺跡は地図上では大変近く感じられますが、徒歩や自転車での散策には不向きであるためトゥクトゥクや観光ツアーの利用をおすすめします。
北バランの中央には、施療院だったことで有名な自然豊かな遺跡ニャック・ポアンがあり、プリア・カーン、ニャック・ポアン、タ・ソムの3つは、まるで一直線上に建てられたかのようです。
ニャック・ポアンの入り口付近の寺院クオル・コーと共に、合計4つの現存する遺跡が同じジャヤーヴァルマン7世によって建てられおり、時間が許せばこれら全てを訪問すると良いでしょう。