

アンコール遺跡群の中でも、群を抜いて美しく精巧な壁画が残るバンテアイ・スレイは「クメール美術の至宝」と呼ばれています。特に「東洋のモナ・リザ」と呼ばれるデバターの彫像が有名で、観光客にたいへん人気がある遺跡の1つです。
アンコール・ワットから北東に約30キロの郊外に造られたヒンドゥー教の寺院ですが、そこは古代クメール王朝発祥の地でもあり「聖なる山」と呼ばれるプノン・クーレン山の麓近くで、アンコールの王たちにとって神聖な地域でした。
967年ラージェンドラヴァルマン2世の時代に着工され、息子のジャヤーヴァルマン5世の時代に完成されたと言われています。ただし実際に建立したのは、当時の王族の一人で王様の先生でもあったヤジュニャヴァラーハとその弟です。
バンテアイ・スレイとは「女の砦」を意味しています。東西115メートル、南北95メートルの小規模な造りで、赤色砂岩とラテライトを主体に、屋根の一部にはレンガが使われており、全体的に赤土色の遺跡です。
アンコール王朝衰退後は忘れ去られていましたが、1914年に再発見されました。深く、立体的に掘られた華やかな彫刻の保存状態は良く、美しいデバター像には今もなお、多くの人々が魅せられています。
中でもフランス人作家アンドレ・マルローは、デバター像を壁から盗掘し国外へ持ち出そうとして逮捕されました。この1923年の事件以来、そのデバター像は「東洋のモナ・リザ」と呼ばれるようになったのです。
現在は遺跡保護のために中央祠堂周辺は立ち入り禁止になっています。美しいレリーフをじっくり堪能するために、是非とも双眼鏡や望遠レンズを持って行きましょう。
バンテアイ・スレイの石碑に刻まれた歴史では、10世紀半ばにヤジュニャヴァラーハとその弟によって建てられました。 ヤジャニャヴァラーハという人物は王族の一人でしたが、多くの学問に精通した学識者であり、ヒンドゥー教のベースとなったバラモン教の高僧でもあったそうです。寺院の建設は、967年当時の王であるラージェンドラヴァルマン2世の立ち合いの元に着工されました。
ラージェンドラバルマン2世はアンコールの北東約105キロのコー・ケーにあった都を、再びアンコールの地 ヤショーダラブラに遷都した王です。その場所ははっきりとは解明されていませんが、アンコール・トムの南側400メートルに位置する丘の上の寺院 プノン・バケンを中心とし、一辺が4キロの堀で囲まれた大きな都であったと言われています。かつて889年にヤショーヴァルマン1世が新都を造った場所でもありました。
ラージェンドラバルマン2世はアンコールに遷したクメール王国の整備を行い、行政や公共事業の充実を図りました。東バライの改修工事や、プレ・ループ寺院、東メボン寺院を建立したのもこの王です。彼が亡くなると、若くして即位した息子 ジャヤーヴァルマン5世の帝王学の師となり、父の代わりにもなった人物こそヤジャニャヴァラーハでした。
それまでのアンコール王朝では王が即位すると新しい寺院を造るしきたりでしたが、この時代は王以外の有力者も寺院を建てていました。その代表的なものがバンテアイ・スレイです。
その後、アンコール王朝の衰退に伴い忘れ去られていましたが、1914年に野焼きしているときに偶然発見されました。10世紀に建てられた寺院とは思えないほど良い保存状態で発見されたことは大きな驚きですが、野焼きの影響で寺院のところどころには黒く焼けた跡が残っています。
バンテアイ・スレイを一躍有名にしたのは、フランスの冒険家であり小説家でもあったアンドレ・マルローが、デバター像を盗み国外へ持ち去ろうとして逮捕された1923年の事件です。
見る人全てを魅了する美しい女性像は、それ以来「東洋のモナ・リザ」と呼ばれています。
ところで窃盗犯のアンドレ・マルローは禁固3年を言い渡されましたが、パリの知識人らの署名運動により、執行猶予1年に減刑されてフランスに帰りました。
帰国後にはカンボジアでの事件をもとにした小説「王道」を執筆し、1945年以降はシャルル・ド・ゴール将軍の側近として情報相や文化相として政治家にもなりました。
没後20年目の1996年には、フランスの偉人を祀るパンテオンに埋葬されています。
野焼きで黒く焼けた跡
美しく極めて保存状態がいい彫刻
窃盗犯から守られた銅像たち
駐車場からチケットのチェックポイントを過ぎるとバンテアイ・スレイの東門があります。東門を入るとレンガ色をしたラテライトの参道が真っすぐに延び、その長さは約150メートルほどです。参道の両側にはシヴァ神の象徴であるリンガを模した石柱が灯篭のように並んでいます。参道の途中にある建物跡の破風には、立体的で精密なレリーフを早速見ることができるでしょう。
右側の破風はヴィシュヌ神の化身ナラシンハが阿修羅王を殺そうとしている場面、左には聖牛ナンディンに乗ったシヴァ神と妻のパールバティ(別名ウーマ)の姿が描かれています。
参道を抜けると第1東塔門、さらに第2東塔門、第3塔門となり、ようやく中央祠堂に到達します。第1周壁の内側からは寺院を守るように環濠が造られ、晴れた日にバンテアイ・スレイの姿を水面に映す様はとても美しいものです。
破風の先端が渦を巻くレリーフ
第二周壁門にあるカーラ
遺跡を水面に映す美しい環濠
それぞれの塔門上部の破風にはレリーフがあり、それぞれヒンドゥー教の神々やインド神話をモチーフにした細かい彫刻を見ることができます。赤色砂岩は一般的な灰色砂岩より硬質であるため、バンテアイ・スレイのレリーフや彫像は彫りが深く立体的に造られ、その硬い岩質ゆえに保存状態も保たれたと言われています。なお、破風の先端が渦を巻いているような形であることもバンテアイ・スレイの特徴です。
渦巻のそばには聖獣たちの姿を多く見ることができるでしょう。
特に見るべきレリーフは第二周壁門にあるカーラの上に座るヴィシュヌ神の姿で、これはンバンテアイ・スレイで最も美しいと言われています。カーラとはヒンドゥー教の天地創造の物語「乳海撹拌」に出てくる顔だけの怪物です。
ギョロ目が特徴的なカーラの顔は死神や時間を司る神として、アンコール遺跡群の多くの寺院で、塔門やまぐさ石のレリーフにいくつも残されています。
他にもシヴァ神とその妻パールバティとの結婚の様子や象の聖水で身を清めるヴィシュヌ神の妻ラクシュミー、踊るシヴァ神の姿などのレリーフも必見です。また、第2周壁には古代インドの叙事詩「マハーバラタ」や「ラーマーヤナ」のストーリーが見事な技術で施されているので、事前に物語のストーリーを把握しておくとより楽しめるでしょう。
細かい繊細な彫刻は必見
「東洋のモナリザ」デバター
美しい色のレンガがよくわかります
第3周壁の内側に入ると、ようやく中央祠堂です。その左右に経堂があり、破風や柱、壁にも美しい彫刻が残されています。中央祠堂の塔の前には、ヴィシュヌ神の化身 猿のハヌマーン、獅子のシンハ、シバ神の従者 ヤクシャ、ヴィシュヌ神の乗り物 ガルーダの坐像があり、塔を静かに護っています。
残念ながら遺跡保護のために現在はこのエリアは立ち入りができず、フランス人小説家アンドレ・マルローが盗み出そうとしたデバター「東洋のモナ・リザ」も間近で見ることはできません。
肉眼では確認しにくいのですが、全部で16体あると言われているデバター像の中で最も美しいと言われ、マルローを魅了した東洋のモナ・リザは中央祠堂の北塔壁にあります。
細い腰と豊かな胸、少しうつむき加減で恥ずかしそうな表情をし、足首までの長いスカートをはいている姿が、柔らかい曲線で立体的に彫られています。他のデバターたちもそれぞれポーズや顔つきが異なるので、双眼鏡や望遠レンズを駆使してしなやかな体つきと柔和な表情の女神像をそれぞれ観察してみてください。
バンテアイ・スレイの中はこじんまりとしていて、広くはありません。混雑時には、ガイド付きツアーでも塔門から自由行動になる場合があるので、ゆっくり見学をするには早朝か閉園間際の時間帯が良いでしょう。
ツアーの魅力と見所:
「東洋のモナリザ」と呼ばれる美しいデヴァター像で有名なバンテアイスレイ、「川の源流」という意味を持つ水中のレリーフが美しいクバールスピアン、アンコールワットが築かれる前の王都ロリュオスこの3つのスポットはアンコールワットの共通入場券で訪れることが出来ます。
~バンテアイ・スレイ~
「女の砦」という意味を持つこの寺院は、建立当時にアンコール王朝の摂政役の王師だったヤジュニャヴァラーハの菩薩寺として建設されたといわれています。ヴィシュヌ神とシヴァ神にささげられた、周囲約400メートルの小寺院で、外壁は赤色の砂岩とラテライト、屋根の一部にはレンガが使用された美しい色合いの遺跡です。
ツアーの魅力と見所:
「東洋のモナリザ」と呼ばれる美しいデヴァター像で有名なバンテアイスレイ、「川の源流」という意味を持つ水中のレリーフが美しいクバールスピアン、アンコールワットが築かれる前の王都ロリュオスこの3つのスポットはアンコールワットの共通入場券で訪れることが出来ます。
~バンテアイ・スレイ~
「女の砦」という意味を持つこの寺院は、建立当時にアンコール王朝の摂政役の王師だったヤジュニャヴァラーハの菩薩寺として建設されたといわれています。ヴィシュヌ神とシヴァ神にささげられた、周囲約400メートルの小寺院で、外壁は赤色の砂岩とラテライト、屋根の一部にはレンガが使用された美しい色合いの遺跡です。
シェムリアップから北東に約40キロ、車で約45~60分ほど離れた場所にあるバンテアイ・スレイは、アンコール遺跡群の中でも郊外に位置する寺院ですが、その美しいレリーフは一見の価値があります。
アンコール・ワットからは30キロも離れており、途中にはジャングルの中の道も通るため、個人で行くよりもガイドツアーを利用した方が便利で安心です。 近隣のクバール・スピアンやブノン・クーレンと組み合わせて訪れるツアーに参加すると良いでしょう。
たいへん人気がある場所で、遺跡に太陽が当たる午前中はバンテアイ・スレイ全体が赤く燃えているように見えるため、午前中から東西を問わず観光客で混雑しています。