プラサット・クラヴァン遺跡とは
About Prasat Kravan Remains
スラ・スランという大池の南にあるれんがで組み造られた小規模寺院です。
921年にヴィシュヌ神に捧げられたとの記述が扉の碑文に残ります。
「クラヴァン」とは香りの良い花の名前という意味です。つまりプラサット・クラヴァンとは「香りの良い花の名前の寺院」ということになります。
ひとつの基壇の上に5つの塔が東を向いて並ぶ、平地式の寺院です。
建てたのはハルシャーヴァルマン1世で、中央祠堂内側の壁面に施された浮き彫りが特徴です。
西南北の3方向の壁にヴィシュヌ神の彫像があしらわれています。
闇の中に立体的に浮かび上がる保存状態の良い浮き彫りは圧巻です!
北端の祠堂内部にはヴィシュヌ神の妻であるラクシュミー像が浮き彫りされていて「れんが色の女神」と呼ばれています。
外壁の装飾が少ない分、内部の凝った彫像に驚くことでしょう。
ハルシャーヴァルマン1世はハリハラーラヤ(ロリュオス遺跡群)からヤショーダラプラ(アンコール)へ遷都を果たしたヤショーヴァルマン1世の息子です。
クメール美術初期にも関わらず高い美術力を持っていたことがレンガ彫刻から読み取れる遺跡です。
プラサット・クラヴァン遺跡の歴史と見所
921年、ハルシャーヴァルマン1世がヴィシュヌ神に捧げるために建立しました。
ヴィシュヌ神とはヒンドゥー教の三主神の一人で、光輝く太陽を神格化した神です。
天、空、地を3歩で闊歩し、世界の維持と繁栄を司ります。
中央祠堂内部には入口である東を除く、西南北の3方向に浮き彫りがほどこされており、8本腕のヴィシュヌ神と瞑想する人々(アヴァターラ)、3歩で世界をまたぐヴィシュヌ神、ガルーダ(ヴィシュヌ神が乗る金色の聖鳥)に乗るヴィシュヌ神が描かれています。
《8本腕のヴィシュヌ神と瞑想する人々》
ヴィシュヌ神は「アヴァターラ」と呼ばれる十種類もの姿に変身して地上に現れるのだそうです。偉大な功績を残した人物や賢い動物をヴィシュヌ神の生まれ変わりと信じ込ませることで、信仰を広げようという思惑があったからだと言われています。
《3歩で世界をまたぐヴィシュヌ神》
ヴィシュヌ神はメール山(ヒンドゥー教の世界観で世界の中心にそびえる山)に住み、4本の腕があります。右腕で円盤と棍棒を持ち、左腕でほら貝と蓮華を持っているのです。天と空と地とを3歩でまたごうとする姿が表現されています。
《ガルーダに乗るヴィシュヌ神》
ガルーダはヴィシュヌ神の乗り物です。躍動感あふれる彫像が、中央祠堂の闇の中に浮かび上がり、今にも動き出しそうに見えます。
中央祠堂を中心に東向きに並ぶ5つの塔にはそれぞれ祀られている神がいますのでご紹介します。中央祠堂にヴィシュヌ神。ヴィシュヌ神の両側がブラフマー神とシヴァ神。南端がウマー(女神、シヴァ神の妃)、北端がラクシュミー(女神、ヴィシュヌ神の妃)です。
北端のラクシュミー塔内壁のラクシュミー像は大変美しく、ダイナミックに描かれているので3方向からの迫力を存分に味わってください。1964年にフランスの修復チームによって修復がなされて以降、保存状態良く残っている必見ポイントです。
南端のウマー塔内部にはシヴァ神の象徴であるリンガとヨニ(リンガの台座)があります。
プラサット・クラヴァンの壁文字
プラサット・クラヴァンのリンガ
他の遺跡とは少し違った出で立ち
プラサット・クラヴァン遺跡の歴史
西暦 | 王名 | 遺跡名 |
---|---|---|
910年 〜 922年 |
ハルシャーヴァルマン1世 Yasovarman I |
主な建築物:プラサット・クラヴァン、バクセイ・チャムクロンなど |
プラサット・クラヴァン遺跡の見学ワンポイントアドバイス
・ヴィシュヌ神、3つの絵と3つの壁面の秘密
ヴィシュヌ神、ブラフマー神、シヴァ神はヒンドゥー教の3主神と言われています。
この寺院はヴィシュヌ神に捧げられた寺院ですから、中央祠堂の絵には秘密があるのです。
ヴィシュヌ神とはトリムールティ(3神一体)であり、ヴィシュヌ神とブラフマー神とシヴァ神は一体化した神ということです。その神格化の一つがヴィシュヌ神という考えにもとづいています。
ヴィシュヌ神からブラフマー神が生まれ、さらにシヴァ神が生まれたとされていて3神の集合がヴィシュヌ神だとも言われているのです。
・アヴァターとアヴァターラ
ヴィシュヌ神が変化できる十種類もの姿をアヴァターラと言います。偉大な功績を残した人物や賢い動物は、実はヴィシュヌ神の生まれ変わりなんだという布教の手法です。アヴァターラって聞いたことありませんか?
ゲームやSNSなどで自分の分身となるキャラクターを作ります。それをアヴァターと呼ぶのですが、元々の語源はアヴァターラからきているのです。ヴィシュヌ神が作り出したアヴァターラを私たちは使いこなしているというわけですね。
アヴァターラの壁面が見れるのは中央祠堂内壁入口から見えるレリーフにあります。
ヴィシュヌ神、3つの絵と3つの壁面
アヴァターとアヴァターラ
・修復の歴史
アンコール遺跡を語るうえで忘れてはならないのが遺跡の修復や保全に尽力している国々や人々の存在です。プラサット・クラヴァンは10世紀前半という古い時代にできているれんが造りの建物ですから、崩壊の危険が常につきまといます。
1964年からフランスの修復チームによって修復がなされ、内壁のレリーフを保存しました。
遺跡内部を見渡してCAという刻印があるれんががあったら、修復時に加えられた新しいれんがです。「Conservation Angkor(アンコール遺跡保全)」の略。
特にフランスの修復チームの補修技術は高く、クメール美術におけるれんが彫刻がどのようにおこなわれていたかがよく分かります。
プラサット・クラヴァン遺跡の見学の注意点
虫よけスプレーは必須
平地式建造物で他の遺跡にあるような急な階段などがありません。 のんびりとリラックスして見物を楽しみましょう。 とは言え、ジャングルの中にありますから虫よけスプレーは必須です。
プラサット・クラヴァン遺跡の場所(Google MAP)
アンコール・ワットから東へ向かうルートを進むと右手にあらわれます。
シェムリアップ・オールドマーケットからは車で20分ほど。
アンコール・ワット国際ハーフマラソンのコースにも含まれます。