ニャック・ポアン遺跡とは
About Neak Pean Remains
クメール王国に平和と繁栄をもたらせた名高い王 ジャヤーヴァルマン7世によって12世紀末に創建されたニャック・ポアンは、「北バライ(ジャヤタターカ)」と呼ばれる貯水池(バライ)の中に作られた仏教寺院です。
北バライは同時期に建設された二階建ての寺院 ブリア・カンのための貯水池で、シャム(アユタヤ王朝)により15世紀にクメール王朝が侵略された後は干上がってしまったそうですが、現在では土手が修復され、再び水を溜めた姿を一部で見ることができます。
ニャック・ポアンの中にも池があり、かつては病を治すための施療院として使われていました。池の中央には祠堂があり、足元には「ニャック・ポアン(絡み合う蛇)」と言われる由来となった2匹の大蛇が円形の祭壇を取り巻き、その池はさらに4つの小さな池へ水が流れる仕組みになっています。
ニャック・ポアンまでは、すぐ近くの寺院遺跡 クオル・コーの森を出た道から、木製の小道が桟橋のように北バライの中を真っすぐに突っ切っています。その桟橋の両サイドは大きな湖のように感じられ、晴れた日には水鏡となって青い空を映し出す風景は、神々しくも感じられ素敵な場所です。
ニャック・ポアンの池は乾季にあたる4~6月は水が涸れてしまうこともあり、それ以外の季節でも雨量によって水量は異なります。タイミングよく寺院内の4か所の小池にも水が溜まった姿を見ることができたなら、施療院として使われていた昔の姿を想像しやすいでしょう。
ただし洪水によって破損し崩落の危険があるため、現在は中央祠堂の近くまで行くことはできません。じっくりと彫刻を見たい場合は、カメラの望遠レンズなどを利用することをおすすめします。
ニャック・ポアンの歴史と見所
ニャック・ポアンは12世紀の後半、ジャヤーヴァルマン7世によって建てられた寺院です。大乗仏教を厚く信仰する王によって、ニャック・ポアン、タ・ソム、クオル・コー、プリア・カーンは同時期に同じエリアに建設されました。
仏僧の住まいであったタ・ソムと仏教を学ぶ静粛な場所ブリヤ・カンの間には大きな貯水池 北バライが作られ、そのバライの中心にあるニャック・ポアンはこれら2つの寺院とほぼ水平に並んで配置されています。
それはアンコール・トムを中心にクメール王国の道路網を整備したジャヤーヴァルマン7世の意図的な計画であることが明らかで、僧侶たちが学び生活をする場所を北バライ周辺に作ったのではないかと考えられるでしょう。
ジャヤーヴァルマン7世が信仰していた当時の仏教は大乗仏教と呼ばれ、戒律が厳しいバラモン教から分離した宗教の1つです。悟りを開き仏陀となった後も、世間の人々の救いを求める声を聞くとすぐに救済のために生まれ変わったという菩薩を深く崇拝し、「信仰によって誰でも救われる」と考えられていました。王自身もその信仰によって人々を助けるために道を整備し、寺院や宿駅、病院を設け、クメール王国の歴史的英雄になったのです。
ところで、ジャヤーヴァルマン7世が創建した寺院は大乗仏教がベースになっていますが、同じバラモン教から分離したヒンドゥー教も大乗仏教と似た神様や神話をもつため、装飾物などからヒンドゥー教寺院と混同されて紹介されることがあります。
また、ジャヤーヴァルマン7世以降の多くの王はヒンドゥー教を信仰したため、迫害された仏教寺院や装飾物は破壊され、仏像をリンガに置き換えるなどヒンドゥー教寺院として再建されることもあったのです。
ニャック・ポアンは北バライ(ジャヤタターカ)の中央に位置しており、そこへ参拝するには池の中に造られた桟橋を渡ります。大きな湖のようにも感じられるバライからは、ジャヤーヴァルマン7世によって水害や土砂災害から国民を守るために整備された、当時の治水工事技術の高さがうかがえるでしょう。
桟橋を渡るとニャック・ポアンの北側の入り口に到着です。現在では残念ながら遺跡内部の散策はできず、北側の小池越しに中央の祠堂やニャック・ポアンの名前の由来ともなった蛇の基壇、神馬の像を見ることになります。
ニャック・ポアンは1辺が約70メートルほどの四角い池の中央にメインの祠堂があり、その四角い池の各辺中央に設けられた小さな祠堂から、それぞれ4つの小さい池に水が流れ出す仕組みになっています。中央の大きな池は病を癒す力があるという伝説の湖「アナヴァタープタ」を真似て造られたと言われており、その池で沐浴をすると自然のパワーによって心身の平衡が保て病気を治すと信じられていました。
中心の祠堂
リンガに置き換えられた仏像
美しい祭壇
中央池と結合している小さな池は、世界を構成すると言われる四大元素の水、土、火、風を象徴して
おり、中央池とは石の樋(とい)によってつながっています。樋は小さな祠のようで、その中にはそれぞれ、入り口がある北側から時計回りに象、人間、ライオン、馬の頭部が設置され、その口から水が流れ出て周囲の小池を満たす構造です。
これらの動物はインド神話では四大獣と呼ばれ、本来は人間の代わりに牡牛を示します。なぜ人間の頭部にしたかはわかっていませんが、大乗仏教やヒンドゥー教の最高神の一人 ヴィシュヌ神の第8化身であるクリシュナーが、牛飼いによって育てられたり「牛の王」とも呼ばれることに関係しているのかもしれません。
中央の祠堂が立つ円形の基壇を取り巻くように、2匹の蛇が東を頭に、西側へ絡まり合っています。これは「ナーガ」と呼ばれ、アンコール遺跡群では頻繁に見ることができるインド神話の蛇神です。
脱皮をする蛇は生まれ変わりや不老不死の象徴とされていました。ナーガの寓話はシヴァ神の悪魔退治を助けたり、天界と地上を結ぶ虹に見立てた橋の役割をする一方で、世界を滅ぼしかねないような悪さもした、と時代や地方によって様々です。
この「絡まり合うナーガ」=「ニャック・ポアン」ですが、中央祠堂に比べると小さく、大雨が続くと池の水に隠れてしまうこともあるようです。
ヴァラーハの物語
乾季では水が干上がる
神馬ヴァラーハ
中央祠堂から東側には通路がありますが、その側には等身大の馬の象があります。これはシェムリアップ国際空港のモチーフにもなっている神馬ヴァラーハです。
観世音菩薩を崇めていた善良な商人シンハラは、ある日航海中に嵐に合い、ほかの旅人たちと共に銅の島に打ち上げられます。
そこは恐ろしい人食い鬼の女たち、リヤクセイ(羅刹女・鬼神)の住む島でした。そうとも知らずに島に滞在するシンハラたち一人一人を、美しい乙女に化けたリヤクセイは夫にしてします。
ある晩、眠っていたシンハラがふと目を覚ますと、部屋の隅のランプが笑っています。ランプにその理由を尋ねると、シンハラたちが共に寝起きしている女たちは恐ろしい食人鬼で、たいへんな危機が迫っていると言うのです。ランプは驚くシンハラに直ちに海辺にいる馬に乗って逃げるよう、ただし、馬に乗ったら向こう岸に到着するまで絶対に目を開けてはいけない、と教えます。
シンハラが仲間を連れ馬に乗にしがみつくと、馬は天高く駆け上がりました。この馬こそが観世音菩薩の化身、ヴァラーハです。
ニャック・ポアンの神馬ヴァラーハ像には、首や脚に人々がしがみついています。それはシンハラを含め、なんと18人もいるそうです。
ニャック・ポアン遺跡を見学出来るツアーのご紹介
アンコールワット周辺遺跡ぐるっと制覇ツアー
【グループ・混載ツアー】ツアーの魅力と見所:
朝日鑑賞から始まり、定番のアンコールワット、アンコールトムなどを中心に大回りコースで訪れるプリアカン、プレループなどを観光します。
そして、夜には伝統芸能のアプサラダンスを見ながらのビュッフェディナーをお召し上がりいただく盛りだくさんの内容になっています。
アンコール遺跡大回りコース充実の半日ツアー
【グループ・混載ツアー】ツアーの魅力と見所:
このツアーでは大回りコースの中でも規模の大きい遺跡である、プリアカン、ニャックポアン、タソム、東メボン、プレループを半日で巡ります。
まず訪れるのは聖なる剣という意味を持つプリア・カン。
ジャヤヴァルマン七世がチャンパ軍との戦いに勝利した記念に建てられたとされる遺跡です。
そしてニャックポアンはプリア・カンの貯水池に浮かぶ円形寺院で、その祠堂は絡み合うは2匹のナーガ(大蛇)によって基壇を取り巻かれています。
ニャック・ポアンの場所(Google MAP)
シェムリアップの中心から車で約30分のところに位置するニャック・ポアンは、12世紀後半の同時期に創建された小さな寺院クオル・コーのすぐ近くです。
大きな貯水池の中、桟橋を歩いて中央の島となるニャック・ポアンへ渡ります。